社員ブログ

染色技術

昇華転写プリントの加工工程について

昇華転写プリントでは欠かせない、転写紙と下生地を高温でプレスする機械です!

こんにちは!大本染工のMです。
前回、前々回の記事では大本染工で行っている捺染方法、
スクリーンプリントインクジェットプリントについて説明いたしました。

今回はそれらとは別の捺染方法、昇華転写プリントについてご説明します。
昇華転写もインクジェットプリンターを使用する工程があるので
広義の意味ではインクジェット方式なのですが、
生地に直接インクを吹く(ダイレクトインクジェット)方式と大きく異なる点があります!

昇華転写プリントの場合は紙に柄をプリントして、その紙と生地を高温で圧着して柄を移す、
名前の通り、インクを昇華転写させることで生地に柄が染着する方式なのです。

筆者は入社した当時、そんなことが可能なの?!と驚きましたが、
実際本当にバリバリ活躍しています、弊社の転写プリンター&プレス機…

今回はそんな絶賛稼働中の転写プリントについて、
ダイレクトインクジェットやスクリーンプリントとの違いも踏まえつつご紹介していきます。

デジタルプリントなので製版不要

転写紙用のインクジェットプリンター。隣のパソコンで印刷設定を行います。

まず初めに、柄の出力について見ていきましょう。
昇華転写プリントもデジタルプリントの一種で、柄データを解析してプリントします。
なので配色や画像処理などの作業は、ダイレクトインクジェットとほぼ同じ方法で行っています。

製版された型を使用するプリント=アナログプリント
コンピュータによる画像解析を基にプリント=デジタルプリントと定義した場合、
下記のような相違点があります。

※2025年時点で大本染工が導入している捺染方法です

デジタルプリントは画像データをそのままプリントするので、
オートスクリーンで必要とされる製版の費用や時間がかからないのが強みです。
また、オートスクリーンが1つの柄における型枚数=色数の制限があるのに対し、
デジタルプリントはCMYKの4色のインクを掛け合わせて色を表現するので
色数の制限がなく、写真調の柄やグラデーション柄も得意です。

しかし、スクリーンプリントが捺染の際にスケージというインクを押し込む
へら状の道具を使用することで発色が濃く、裏面にまで浸透しやすいのに対し、
デジタルプリントはインクを吹き付けて柄を表現するので、
浸透具合はスクリーンプリントに劣ります。

オートスクリーンで使用するスケージ。染料を生地にしっかり押し込みます。

分散染料は熱と圧力で昇華(気化)する

先述の通り、昇華転写プリントは柄を吹き付けた紙と生地を密着させて、
回転する大型ドラムに高温でプレスすることで発色するプリント方式です。
では、どうして高温でプレスすれば転写できるのでしょう。
それは分散染料の性質を利用しているからなのです。

ポリエステルやアセテートなど合成繊維の染色に使用される分散染料。
この染料の中には、高温(通常150℃以上)によって移行昇華する性質を持つものがあります。

昇華転写プリントでは、分散染料の中でも昇華しやすい性質を持った
昇華染料が特別に配合され、プリンターインクとして備わっています。
高温で転写紙と生地がプレスされた時、昇華転写用の染料分子は
固体から気体へと昇華し、合成繊維の表面で再凝固して半永久的に着色します。

大きく異なるのはこの染料が定着する工程。
スクリーンプリントやダイレクトインクジェットは、
捺染後に高温もしくは高圧の「蒸し」によって染料を定着させますが、
昇華転写では昇華(気化→再凝固)のプロセスを経ることで
染料が定着するので、蒸しの工程が必要ありません

また、昇華転写プリントでは生地に前処理糊や助剤を塗らなくても
染料が定着するので、これらを洗って落とす「ソーピング」の工程も必要ありません
このように、生地の前処理や洗いなどの工程が省けるため、
発注から短納期なのも昇華転写プリントの強みです。

従来のテキスタイルプリントと違い、水を使用しないので廃液を出さずに捺染できます。
このことから昇華転写プリントはエコプリントとも呼ばれます。

意匠性の高さ、風合い

昇華転写プリントとインクジェットプリントでは、
同じデータを出力しても仕上がりに差が出ます。
使用しているインクが違うので色が変わるのはもちろんのこと、
柄によっては見え方(線の太さやテクスチャ)が変わることもあります。

左:昇華転写 右:ダイレクトインクジェット
同じ生地に同じデータをプリントしても、昇華転写の方がシアン系の彩度が高く発色します。
一方で、ダイレクトインクジェットの方が生地の凹凸感がしっかり維持されています。

特に写真調の柄は、インクジェットだと染料が滲んでしまい
細かいディテールが潰れたりぼやけたりすることがあるのですが、
転写プリントであれば比較的鮮明に柄が出力されますし、色の彩度も高く出やすいです。

ここまでの話だと、なんだか転写プリントって万能なのでは!
という気がしますが、実はまだまだ課題もあるのです…
主にこの3つ。


・染められる素材が限られる(ポリエステル等合成繊維のみ)
・生地によってはテカリが目立ったり、風合いが固くなることも
・高温で再昇華する恐れ


分散染料で染まらない綿、麻、毛、絹などの天然繊維、
レーヨンやキュプラなど再生繊維で作られた生地に昇華転写プリントはできません。

しかし、近年では様々な種類のポリエステル素材が登場しているので、
柄との組み合わせでバリエーションに富んだプリントを楽しめるのではないでしょうか。
オーガンジーやシフォンなど薄手の生地や、撥水加工の施された
タフタやリップストップなど高密度の生地でも、問題なくプリントできます。

また、昇華転写プリントは200度ほどの高温で圧着するので、
生地によっては凹凸感が失われたり、テカリや風合いの固さが目立ってしまうこともあります。
風合いの固さについては、プリント後に柔軟剤を投入することで改善されることもあります。

さらに、転写プリントを施した生地を再度高温に晒すと定着した染料が再昇華する恐れがあるので、
プリント後にプリーツ加工をかけると問題が発生する場合があります。
ご家庭でのお手入れでも、アイロン等で200度近くの高温+圧をかけすぎないよう、注意が必要です。


このように、染められる素材が限られていること、
生地によっては風合いが固くなることなどのデメリットはありますが、
昇華転写に適した素材、柄と組み合わせることで、短納期かつ表現性の高いプリントが可能です。

まとめ

今回は昇華転写プリントについてご紹介しました。
昇華転写プリントは…
デジタルプリントの一種で、転写紙に柄をプリントして、
その紙と生地を高温と圧でプレスして生地に柄を写す方式です。
昇華転写プリントがぴったり!な加工条件を下記にまとめてみました👇👇

柄や生地などの条件に応じて、また浸透具合や風合いなど
お客様がイメージされる仕上がりによって、適したプリント方法は異なります。
大本染工では、このように様々なプリント設備、方式を確立することで、
多くのニーズに応えられるようにしております。お気軽にお問い合わせください。

ではでは、長くなりましたが読んでいただきありがとうございました☀

参考文献

・西田 健三, 1981, 「昇華性染料を用いた転写」, 『実務表面技術』28(3): 104-108, (2025年5月取得, https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj1970/28/3/28_3_104/_article/-char/ja/).
・杭州E-Town Import & Export Co., Ltd, 2025, 「昇華染料と分散染料の違いは何ですか?」, Hangzhou E-Town Imp.& Exp. Co., Ltd, (2025年5月取得, https://ja.etowndyes.com/info/what-is-the-difference-between-sublimation-and-92501933.html).