社員ブログ

染色素材・材料

赤色の染め ~染料編~

こんにちは!大本染工の社員Mです。

赤色の染め~顔料編~」に引き続き、今回も赤色の色材について書いていこうと思います。

今回は、生地への染色に一般的に使用されていた染料がテーマです!
草木染はご存じの方も多くいらっしゃると思いますが、
なんと虫も染色の材料だったんだとか…!
現在流通している多くの染料は化学物質から作られるものがほとんどですが、
19世紀にその技術が確立するまで、
人間は自然のあらゆる物質や生き物から染料の素を採取したのです。

それでは早速、赤色染料とその文化を見ていきましょう☀

↑前回の赤色の顔料についてのブログはこちらからどうぞ↑

赤色の染料

・紅花[べにばな] 別名:紅藍花[こうらんか]、末摘花、呉藍

紅(くれない)」は貴族の憧れの色であり、
平安時代以後は禁色※1ともされた赤の代表的な染料です。
染料の抽出には花びらを使用します。
古くから染料・薬用(防腐防虫)・食用(油)など様々な用途で使われてきたようです。
なんと、紀元前2500年前の古代エジプトのミイラの着衣からも
紅花染めの色素が出土したんだとか…!
国内では、弥生時代の纏向[まきむく]遺跡(現在の奈良県桜井市に位置)に、
紅花染めが行われていたとされる遺構が残っています。

※1…禁色(きんじき)
8世紀ごろ天皇を頂点とし、位によって衣服の色が決められた律令制度において、
下位の者が身に纏うことが許されなかった色のこと。紅花は918年に禁令が出された。

※実際の染色は、素材や染料濃度によって色味が都度変化します。この画像の色は一例です

聴色[ゆるしいろ]

平安時代、濃い紅花染めは禁止されていましたが、
一斤染め[いっこんぞめ]」という薄い紅花染めはゆるし色とされ、
庶民の着用が許可されていたのだそうです。

・茜[あかね] 

その名の通り、茜=赤根が名称の由来で、根を用いて染料を抽出します。(ちなみに花弁は白)


3世紀ごろの中国の書物『魏志倭人伝』には、
卑弥呼が魏の国に貢ぎ物として「絳青稴(こうせいけん)」という
赤色と青色の織物を贈ったという記述があります。
この「絳」こそが「茜」、すなわち茜染めであるとされます。

このように古くから歴史を持つ茜染めですが、
染色で美しい赤を出すには手間と高度の技術が必要とされるそうです。
植物の根の部分を用いて染めるのですが、
この根っこの色素が元々少ない上に
黄褐色に寄りやすく濁った赤になってしまうんだとか…

他の赤色と比べるとやや黄身に沈んだ赤色のイメージが多いようです。

※余談 緋色≠スカーレット?

茜染めは他にも、緋色やスカーレットなどの種類があります。
緋色は日本の伝統的な茜染めの中で最も明るい色を指します。

スカーレット(scarlet)は現在ではコチニールという染料のイメージが強いですが、
さかのぼるとペルシャ語の「saqirlāt(=茜染めの高級織物)」が語源にあたります。
しかし西洋では茜を入手することが難しく、コチニール染料で赤色を表現したため、
元来の意味から変化していった
…というわけです。
ですので、スカーレットという英単語を日本語の「緋色」と訳するのは
色名としては正しいですが、染料としてはそもそも原料が異なるのです。

・蘇芳[すおう]

マレーシアやインドに自生するマメ科の植物です。
染料としては飛鳥時代以降、茜や紅花の代用染料として使用されました。

この樹木の芯部分(心材)にはブラジリンという赤色色素が含まれており、
これを煎じて染料として使用します。
心材は「蘇木」として漢方薬の原料にもなります。

酸化することでより赤の発色が濃くなって黄みを帯び、
アルカリ性に寄ると青みが濃くなるそうです。
「蘇芳色」という色名はくすんだ青みの赤を指しますが、
これはアルカリ性水溶液で媒染した蘇芳の色味に近いそうです。

アジアのラック、ヨーロッパのケルメス、南米のコチニール

さて、ここからは植物ではなく虫(!)を原料とした動物染料をご紹介します。

・ラック

インド、タイなどに生息するラックカイガラムシの雌が出す
樹脂状物質からとれる染料です。
この物質からは色素だけでなく、
塗料や接着剤の役割を果たすものも採取していたのだとか。
(塗料のラッカーはこのラックカイガラムシが語源です)
カイガラムシが樹木の枝に多く集まり、分泌物に覆われると
棒状の塊(スチックラック)になります。
日本には奈良時代に伝来し、正倉院には薬用として採集されたスチックラック
紫鉱(しこう)」が保存されています。

中国やインドなど東洋では、古くから染料として使われていました。
日本で「臙脂(えんじ)」と呼ばれていた
深みのある赤色は、元々中国から渡来した紅花由来の色材でした。
しかし、7世紀ごろにラック由来の色素がもたらされると、
臙脂色はラック色素由来の染料を指すようになったのです。

薄い円形の綿にラック染料をしみ込ませた「綿臙脂」は、中国から世界中に輸出され、
化粧品や工芸品の色材として使用されてきました。

・ケルメス

ケルメスもラック同様、カイガラムシから採れる染料です。(こちらはカーミンカイガラムシ)
15世紀ごろまでヨーロッパや地中海沿岸部で染料として広く使用されていました。
「ケルメス(kermes)」という言葉は、現代でも絵具の色名としてよく耳にする
クリムゾンレッドカーマインレッドの由来にもなっています。

Crimson Rosellaことアカクサインコ。その名の通り、深みのある鮮やかな赤い羽色が特徴的です。

・コチニール

先述の茜の章でも少し記しましたが、メキシコなど中南米のウチワサボテンに寄生する
カイガラムシ科エンジ虫を潰して採取する染料がコチニールです。
アステカ帝国やインカ帝国の時代には、貢物として非常に重宝されたようです。

(筆者は検索結果の画像を見て震えたので、カイガラムシを検索することはおすすめしません😢)

スペインによる統治後はヨーロッパ各地に広まり、
生地への染色や化粧品、医薬品など様々な用途で使われるようになりました。
お酒のカンパリ、ハムやソーセージ、かまぼこ、桜でんぶといった、
私たちの身近にある食品の着色にも使われているんです。

後に中近東に輸出されるようになったことで、
先述の赤色染料ケルメスと混同されるようになってしまいました。
また、利便性の高いコチニール染料が広まったことで、
ラックやケルメスは生地への染色にあまり使われなくなりました…。




コチニール系染料を使用したとされる江戸時代の陣羽織。

陣羽織 緋羅紗無地 三盛雁丸紋付
(じんばおり ひらしゃむじ みつもりかりまるもんつき)
出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)


日本では室町~安土桃山時代に伝来したとされ、この時代の武士たちは
ケルメスやコチニールで染めた「猩々緋(しょうじょうひ)」と称される
緋羅紗[ひらしゃ](赤く染められた羊毛の織物)をこぞって着用しました。
植物染料の落ち着いた色合いとは異なる、西洋からやってきた真っ赤な羅紗を
当時の武士たちはさぞ気に入ったのでしょうね。

余談ですが、「猩々」は中国の伝説上の猿のような生き物です。
映画『もののけ姫』で知った方も多いのではないでしょうか。

まとめ

今回は赤色染料の代表的なものをいくつかご紹介しました。
現代の染色では合成染料が主流ですが、天然染料の歴史を遡る中で、
今でも使われている着色料や色名が多く出てきましたね。
私たちが何気なく日常で目にする色のルーツをたどっていくと、
染めの世界がもっと身近に感じていただけるのではないでしょうか。

ではでは、読んでいただきありがとうございました◎

参考;

・國本 学史, 2009, 「日本古代8世紀の赤色について」,『日本色彩学会誌』33(3): 251-262, (2025年12月取得, https://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?contentNo=1&itemId=info%3Andljp%2Fpid%2F10749211).
・山形県立博物館, 1982, 『紅花のすべて展 : 紅花と最上川』, (2025年12月取得, https://dl.ndl.go.jp/pid/11994540).
・中島 路可, 2003, 「聖書の中の染と織(2)」,『繊維学会誌』59(5): 140-146, (2025年12月取得, https://www.jstage.jst.go.jp/article/fiber/59/5/59_5_P_140/_article/-char/ja/).
・沓名 弘美, 沓名 貴彦, 2018, 「臙脂の再現にむけて」, 『オレオサイエンス』18(10): 507-513, (2025年12月取得, https://www.jstage.jst.go.jp/article/oleoscience/18/10/18_507/_pdf).
・プロダクト・プランニング・センターK&M, 「ペルシア絨毯の染色」, 数寄の絨毯 (すきのじゅうたん) (2025年12月取得, https://www.ppckm.net/persiancarpet-naturaldye?srsltid=AfmBOopKkHvHKM2hpUUtqQVB2TIc9usXym5dDm3g_gs330dJ-rVL56DV
https://www.touken-world.jp/tips/92037/).